劇場版 PHYCHO-PASSと権力についての曖昧な記憶
「踊る大捜査線」の本広克行監督がアニメーション作品の総監督を初めて務め、フジテレビ系アニメ枠「ノイタミナ」で2012年に第1期、14年に第2期も放送された人気作品「PSYCHO-PASS サイコパス」の劇場版。人々の精神を数値化する「シビュラシステム」が導入された近未来日本を舞台に描かれたSF警察ドラマで、テレビシリーズ第1期でも脚本・シリーズ構成を担当した虚淵玄がストーリー原案&脚本、本広総監督と塩谷直義監督もテレビシリーズから続投している。西暦2116年、「シビュラシステム」を輸出し、世界に広げようと計画する日本政府は、内戦状態のSEAUn(シーアン=東南アジア連合)の首都シャンバラフロートにシステムを実験的に導入。しかし、SEAUnからテロリストが日本に密入国し、シビュラシステムの中枢に攻撃をしかけてくる。公安局刑事課一係の常守朱は密入国者たちと対峙するが、やがて彼らを裏で手引きしている人物の存在が浮上する。その人物は、公安局刑事課一係の執行官だった男で、常守朱のかつての仲間だった。
この作品は正義と権力の物語だった。
シビュラシステムは、日本国内を制御する秩序である。そして秩序はもちろん権力を孕む。権力を維持し続けるためにはより強大な権力を求め続けることが必要不可欠である。シビュラシステムは権力を求め続けるために「平和の海外輸出」という選択をした。
主人公の常守朱はシビュラシステムの権力による支配を改めたいと考えている。その理想には、人間が自分の頭で考える民主主義的な社会がある。しかし、主人公の友人はシビュラによる恋愛診断から結婚を決めたりと、日本国内はシビュラの権力下にある。
シビュラシステムの海外輸出先のシーアン国で常守のかつての部下であり、恋愛感情を伴う狡噛の姿が発見され、常守は海外での単身捜査に乗り込む。
しかし、乗り込んだ先のシーアン国は秩序とは無縁の国だった。常守は自分の理想を打ち砕かれる。シビュラシステムの支配下の外に出れば紛争と暴力、死と隣り合わせの世界だった。
それでも常守は絶望しなかった。かつての部下、狡噛を見つけ出し、タッグを組んでシーアン国の軍事政権(権力)と戦う。日本に残る唐ノ杜の力を借りながら、軍事政権の闇を暴き、最高権力者と対峙する。
最高権力者のハン議長もまた、シビュラシステムの傀儡であった。あくまでシステムの1員にすぎなかったのだ。常守はテレビシリーズ同様、シビュラの掌の上で踊らされていた、シビュラの駒にされていた。
常守はホログラムで作られたシャンバラフロートのミニチュアを文字通り踏み潰しながらハン議長(=シビュラシステム)「歴史に敬意を払いなさい」と説き、内政干渉を行い、正当ではない手段を取ったシビュラシステムに警告をしている。
シビュラシステムは秩序を保つための権力を日本国内で確立し、「合法的支配」を実現している。一方で槙島事件に代表されるよう、「カリスマ的支配」には弱い側面を持っている。
常守は残念ながらカリスマ性を持ち合わせてはいない。しかしシビュラの外の絶望を見せつけられても屈しない強かさ、歴史から学ぶ賢人らしさを持ち合わせている。
だからこそ常守はカリスマ性を持つ狡噛に惹かれ、狡噛を信じることが出来たのであろう。
シビュラシステムを打ち砕く物語が今後描かれるのならば、槙島と並ぶカリスマ性を持つ狡噛と主人公の常守が日本国内でタッグを組むときではないだろうか。